第1回 観光を考えるシンポジウム(2013年)【経営コンサルタントは必要か?~観光業の場合~】

第2部 会場からの質問を受けながらの全体討論(パネルディスカッション)

~サービス業においては最も身近な「おもてなし」に関する質問からスタートしました~

会場からの質問:
経営を数字でとらえる「旅館経営を科学する」という話を最近よく聞きますがおもてなし、ホスピタリティ、顧客の心情(お客様が何を求めているのか)など、ソフトの部分はどのように数値化したらよいのか、また科学することはできますか?(旅館関係者)

針谷:
経営を科学することは必要です。科学する事とは再現性と客観性があること。経験に頼らないことです。経営現場での例にたとえると、徹底的なデータ分析・調査をし仮説を立てる。それを実行して仮説の検証をしてから本格導入をすること。単にデータを読むだけでなく、データの裏に秘められた“人の心”を読むことが科学だと思いますし、そこを勉強するべきだと思います。

小泉:
おもてなしの数値化・科学はできますが、データの定点観測をすることが必要ですね。季節による顧客の予約動向の推移(予約速度)など、データ検証できる項目もあります。

取締役:
旅行業は、サービスの科学化が遅れている業界だと思っています。例をあげるならば、旅行代理店のカウンターなど画一的なサービスの現場も多いですし、添乗員付きの旅行(ツアー)の現場では、添乗員の器量(属人的サービス)にまだまだ頼りきっている場合が多いかもしれませんね。サービスを科学するということは、旅行業界が持っている課題のひとつだと捉えています。

前川:
観光やサービスを科学することはできるのかという話題になったところで、もうひとつ、科学することとは別のアプローチである、KKD(K・・勘、K・・経験、D・・度胸)という考え方について、針谷会長と小泉社長は、異なる意見を持っていらっしゃいます。つきつめれば同じ意見だと思いますが、KKDという考え方についてのそれぞれのご意見も伺っておきたいと思います。

小泉:
誤解のないように申し上げておきたいのですが、勘と経験と度胸に基づく考え方が良いと言っている訳ではなく、サイエンス+勘と経験と度胸のすべての要素が必要なのが観光業であると思っています。世の中の見えないものを数値化することも大事ですが、過去の経験やノウハウも非常に大事だと思っているからです。人対人が付加価値を生み出していることも観光業の特色のひとつであり、ガイドブックだけではわからない魅力を創出しているのも事実ですので、人の持つファジーな要素も必要であると思います。

針谷:
勘とは・・勘違いの勘でもあります。(笑)また経験とは、どこまで積めば確かな経験といえるのか、たとえ20年~30年経験を積んだとしても本当に“経験がある”と言えるのか、私は疑問に思っています。先程申し上げたように、科学とは“再現性と客観性”、誰もがいつでも同じようにできるような仕組みをつくる事、またそのプログラムをどうやって推進していくのかについての教育が必要であると思っていますので、勘と経験と度胸だけではそれらの教育はできないと思っています。さらに重要なことは、お客様アンケートにある“お客様言葉を日本語に翻訳する能力“など、データ(数字)の裏に潜むお客様の気持ちを読む力を育てることなので、やはり科学的なアプローチが必要だと思います。

〜観光を科学・データ分析することはできるのか?という話題から、さらにコンサルタントのビッグデータ活用法や解析手法へと、全体討論が続きます~

会場からの質問:
観光業においてのビッグデータ活用法や解析の仕方について、どのように考えていますか?(京大大学院生)
会場参加者の声:
マーケティングや課題解決策の立案など、仮説立てや検証の段階でのデータ活用が必要であると思っています。データのすべてを信じるという意味ではなく、仮説に沿ってデータで検証するといった具合に、実際の現場で活用しています。(旅行業界シンクタンク系コンサル)
会場参加者の声:
ビッグデータをどう観光業に使うかはまだ模索中ですが、データ解析をする際に大切なのは、現場の実態に合わせてデータを検証し疑う感覚、数字をどう見れるかが重要だと思っています。(旅行業界シンクタンク系コンサル)

針谷:
ビッグデータ自体がどうかというわけではなく、データを参考にする、データの読み方が大事だと思います。例えば、宿で頂くお客様からの評価も、データを参考にしたうえで宿のコンセプトに沿う内容と沿わない内容のもので、対応策(改善策)が変わってくるということです。Everybody welcome(誰にでも来て欲しい)という宿が多くなりすぎたという業界全体の過去が、旅館業の衰退を招いた理由のひとつと考えていますので、私はある種のお客様に、熱烈に支持される旅館でありたいと思っているのです。データを精査しながら、データを読み解く技術・能力も大切にするよう社員にも伝えています。

小泉:
コンサルタントがどのようにデータを使っているかというと、バイアスのかかった見方をしています。つまり、どのような目的で数字を見るかで、同じデータでも捉え方が変わってくるということです。数字は読み物なので、見る視点によって変わってくるものだと思いますし、仮説を立て検証する時のある種の“道具”として使っています。

前川:
バイアスといえば、「SWOT分析」という手法がありますよね。SWOT分析をすると(現状の整理をしただけにも拘らず)、それだけで“分析”した気になることもありますが、そのままでは誰がやっても同じ結論ですよね。ぜひそこから、ポジティブなバイアスをかけてデータをみるべきだと思います。

~コンサルタントの活用法について、経営という分野にとどまらず「地域活性」という領域においてはどう考えるべきなのか?まだまだ討論は続きます~

会場からの質問:
観光業を生業とするまちで、どのように地域活性化について取り組んでいくべきか?(旅館関係者)

針谷:
私は子供のころから地域への想い、雄琴の発展に関しての思い入れがあり、なんとか雄琴温泉のイメージを改善したいと取り組んできました。宿の経営から地域のイベント・キャンペーン実行委員長など、すべてのことを仲間と一緒に同時並行でやってきましたし、今でも役割は変わっても意識的なものは変わらず、取り組み続けています。自身の宿の経営も地域の活性化に関しても、すべてのことを同時並行的に行っていくことが大事だと思います。

小泉:
現在取り組んでいらっしゃるのが、「まちあるきの仕組みづくり(人通りを増やしたい)」ということであれば、まちの商店街にある事例が近いかと思います。身近な例として、尼崎の三和商店街の「メイドインアマガサキ」という事例があります。特筆した名産品やお土産物などがない尼崎で、市民の人に“尼崎らしいもの”を応募してもらいコンペを実施、市長や商工会議所、専門家を巻き込んだ市民イベントを行いました。グランプリを表彰した調味料はメディアでも取り上げられたり、地元の物産品を集め工夫しながら商品化することで、楽天市場で調味料部門1位の販売実績を上げるなどの成果を残した事例もあります。大事なのは仕掛け方、身近なところにヒントは転がっているのではないかと思っています。

前川:
宿の経営だけでなく、地域の活性化にもコンサルタントは活用できそうですね。